コラム:世界貿易戦争で割食う日本円の「危うい立場」=唐鎌大輔氏
外為フォーラムコラム2018年3月27日 / 12:24 / 9時間前更新
唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
[東京 27日] - 「貿易戦争」ないし「通貨安競争」といったフレーズが3月に入り、多用される場面が増えている。この状況下でドル円相場は一時105円を割り込む場面もあり(27日正午現在は105円台半ば)、「円のファンダメンタルズに照らしてこのような動きは正しいのか」といった照会も最近は増えている。
確たるフェアバリューが存在しない為替相場について、値動きの正否を論じるのは、はっきり言って難しい。ただし、変動為替相場制の世界で特定通貨だけが売られ(または買われ)続けることは理論的に想定されるものではない。
例えば、実質実効為替相場(REER)は平均回帰性向を持つことで知られる。詳細な説明は割愛するが、大ざっぱに言えば、ヒト・モノ・カネの移動が自由だと仮定した場合、為替レートが特定国の競争力を利する方向だけに動き続けることはなく、最終的には一物一価が徹底されるように動くはずという考え方である。
今回はそうした基本に立ち返った上で、国際決済銀行(BIS)が毎月公表しているREERを用い、円相場についてどのような評価が可能なのか整理したい。
<円の調整は明らかに甘い>
実は、円相場は年初来で大きく上昇しているものの、依然として主要通貨では最も割安感の大きい通貨である。長期平均(過去20年平均)からの乖離率で比較すると、最新(今年2月)の計数で円の割安感は1年前から変わっていない。
具体的には、現時点(特に断らない限り2月)で円のREERは長期平均対比マイナス22.5%と主要通貨の中でも突出して大きい割安感を持つが、これは1年前(2017年2月)のマイナス22.0%と比べると解消されるどころか、やや広がっている。
この点、同じく1年前に割安感の大きかった通貨としてメキシコペソや英ポンドそしてユーロなどが挙げられるが、これらの通貨は過去1年で大きく割高方向への修正が進んだ。例えば、過去1年間で為替相場の主役となったユーロを見ると、REERからの乖離が1年前はマイナス9.5%だったが、現時点ではマイナス3.1%となっており、プラス6.4%ポイント、然るべき方向に調整が進んだ。
同じようにメキシコペソはマイナス31.0%からマイナス19.7%へ、英ポンドはマイナス17.2%からマイナス13.2%へ、それぞれプラス11.3%ポイント、プラス4.0%ポイントずつ調整が進んでいる。
一方、1年前に割高感が大きい通貨だったスイスフランや豪ドル、米ドルはこの1年で大きく割安方向への修正が進んでいる。例えば、米ドルは1年前にプラス8.6%の上方乖離だったものが現時点ではプラス0.8%となっており、7.8%ポイント然るべき方向に調整が進んだ。
同様にスイスフランはプラス10.0%からプラス5.2%へ、豪ドルはプラス7.3%からプラス4.3%へ、それぞれ4.8%ポイント、3.9%ポイントずつ調整が進んでいる。
これらを総合すると、主要通貨で見れば、米ドルやスイスフランを手放す動きが進んだ傍らでユーロやメキシコペソがその「受け皿」となってきた事実が浮かび上がる。
こうした中、「割安だったものがさらに割安になった」という円はやはり特異な存在であり、相場に不均衡が蓄積しているように見受けられる。筆者は常々、「円の調整が甘い」と考え、方々で主張してきたのはこうした事実に基づいている。
<狙われやすい円の立ち位置>
米財務省は半年(4月と10月)に1度公表する「為替政策報告書」で監視リストを掲載しており、現状では日本を含め5カ国が指定されている。上述のREER比較に基づけば、円は監視リスト対象国通貨で「最も割安な通貨」という位置付けであり、なおかつ「過去1年間で調整が進まなかった唯一の通貨」という位置付けでもある。
昨年10月に公表された為替政策報告書では「(REERに関し)円は過去20年平均を20%以上下回っているし、ユーロは4%下回っている」といった旨の記述があった。だが、これまで見てきたように、過去1年で見れば、ユーロは相応の上昇を経ているが、円はほとんど変わってこなかった(上述の通り、むしろREERベースでは小幅下落した)。
もちろん、REERは数ある尺度の1つにすぎないが、米通貨・通商政策の現状を踏まえると、円がやや気まずい(言い換えれば狙われやすい)立ち位置にあることも事実だ。4月に予定される為替政策報告書公表や日米経済対話は、円がこうした状況にある中で実施されるということも念頭に置きたい。
<米国が望めばドル全面安は不可避>
今後、「安全保障上の脅威」を根拠の1つとして追加関税を課すという「抜け穴」が多用されれば、貿易戦争や通貨安競争を懸念する空気は一段と濃くなるだろう。例えば、鉄鋼やアルミニウムを多く輸出するカナダやメキシコが米国という巨大な輸出先を失えば、その分を他国・地域向けに寄せてくる展開が予想される。寄せられた側にとってはセーフガード発動の根拠ともなりかねない展開だ。
こうして世界の貿易量は減少し、世界経済の停滞が想起されやすくなる。米国の輸出産業も結局は影響を受けよう。まさに「勝者なし」だ。足元の米国の通商政策に欧州連合(EU)や中国も報復する姿勢を隠していないが、こうして各国・地域がブロック化して争うようになった結果が究極的に世界大戦だったという歴史的な経緯は思い返しておきたいところである。
「貿易戦争だって構わない」とまで放言するトランプ大統領の言動を踏まえれば、現状のムードがすぐに大きく変わるということもないのだろう。仮に貿易戦争という局面に至った場合、関税や非関税障壁は「武器」ということになるが、通貨安も「武器」の1つになる。これは貿易黒字国を糾弾するトランプ大統領自身が選挙期間中からドル安志向を隠してこなかったことにも表れる。
為替相場を見通す立場からは、仮に貿易戦争に伴い通貨安競争が激化した場合、ドル全面安は不可避と考えた方が良い。変動為替相場制の世界において基軸通貨ドルの意向は絶対であり、これは予想というより摂理に近い。予想が難しい為替の世界において「米国が望む通貨政策の方向感は大体かなう」という事実はほぼ揺るがないものだ。
貿易戦争というフレーズが多用される中、ドル相場がほぼ独歩安となっている現状がその証拠だろう。なお、唯一の例外が北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉中のカナダであり、カナダドルは対ドルで年初来大きく下落している稀有(けう)な通貨だ。
いずれにせよ、上で見てきたように、当該通貨の総合力とも見なし得るREERで測った場合、主要通貨の中で円だけがドル全面安という過去1年の流れに沿って調整が進まなかった。今後、貿易戦争が激化するという前提に立った場合、とかく対米貿易黒字の大きい国の通貨が対ドルで上昇しやすくなる展開が予想されるが、日本は2017年の対米貿易黒字で世界第3位(2016年は2位)であり、REERは割安のまま放置されて調整が進んでいないという事実がある。
これらの事実を踏まえれば、やはり標的になりやすいように思えてくる。円相場を見通す上で、現状は通貨・通商政策に絡んだ政治経済的なリスクが増している局面であり、そのような局面に本格的に立ち入った場合、本邦側から打てる手立てがさほど多くないという事実を忘れないでおきたい。
*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位、13年は2位。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月)
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)
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